天寿を全うすること、それは vol.197

  • 2020.09.27 Sunday
  • 19:05

JUGEMテーマ:エッセイ

 

「生きとし生けるものは必ず死ぬんだよ。」

私はそのことを飼い猫から教わった。

猫の生き様を通して

命の儚さと大切さを教わったのである。

 

子供の頃から私の周りには常に猫がいて、

私を愛せない母の代わりに、

私を愛し、慰め、たくさんのことを教えてくれたのだ。

 

死んでしまいたいと何度も思った寂しい子供時代に、

猫だけは私のそばを片時も離れなかった。

 

そんな私は大人になった今でも

たくさんの猫に囲まれて生きている。

 

けれど猫の寿命はせいぜい十数年だ。

私がどんなに彼らを愛しても、

持って生まれた彼らの寿命を延ばすことはできないのである。

 

私は今まで何度も猫を見送り、

その度に悲しみに打ちひしがれて、

何度も何度も後を追ってしまいたいと思った。

生きることへの執着が薄い私には、

猫との別れは耐え難き苦しみなのである。

 

それでも私が今こうして生きているのは、

我が家に猫が絶え間なくやって来るから。

猫がどこからともなく庭に姿を現しては、

小さな命を剥き出しにして助けを求めるからだ。

 

「よし! この子が天寿を全うするまで

 私が責任を持って面倒を見よう!」

 

私は毎度そう自分に誓って、

地に足をつけ直すのだ。

最後の1匹が天寿を全うするまで、

取り敢えずこの世に生き続けようと。

 

ところが私の誓いをこっそり聞いていた神様が、

 

「なぬ?なぬ?

 猫がいなくなったらあやつは死んでしまうのか!」

 

と私を心配して、

我が家にごまんと猫を送り込んでしまったから、

私はなかなか後を追えないのである。

 

「なんてこった・・・、なんてこった・・・。

 20匹はさすがにキツイぜ!」

 

私は神様にブツブツ文句を言いながら、

毎日髪の毛を振り乱して猫様のお世話をしているのである。

 

そして生きながらふと感じることは、

空がとっても美しいってこと、

りんごがこの上なく美味しいってこと、

 

どんなに嫌なことがあってもお腹は空くし、

お笑い芸人のネタがツボにはまれば

ついつい笑ってしまう、

 

いつのまにか楽しいことや美味しいことに紛れて、

辛い記憶が薄らいでいくっていうこと。

 

人生は思いのほかシンプルなのだ。

 

だから私は最後の猫が天寿を全うしても、

もう後を追いたいと思わないことにする。

 

生きとし生けるもの、いつか必ず死ぬのだから、

天寿を全うするその瞬間まで

美しい空を眺めて、

美味しいりんごを頬張って、

今生出会った愛するものたちに

思いを馳せる方が断然お得というものだ。

 

神様がどうして私に20匹の猫を授けたのか、

それはこの世はまんざらでもないってことに

気づく時間を与えたかったからなのだ。

 

生きとし生けるもの、いつか必ず死ぬのだから、

先を急ぐ必要なんてないんだよ。

今日を乗り越えれば明日はもっと

美味しいりんごが食べられるかもしれないよ、って。

 

だから私はちゃんと天寿を全うすることにします。

神様の許可を得てから天に還ることと致します。

 

天寿を全うすること、それは、

この世に生を受ける時、

神様と交わしたたった一つの約束事だから。

 

天寿を全うすること、それは、

この世に生を受ける時、

誰もが交わす神様とのたった一つの約束事。

 

 

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