いつも見ていた夢 vol.120

  • 2017.03.15 Wednesday
  • 02:26

JUGEMテーマ:エッセイ

 

私には繰り返し見ていた夢が二つある。

一つは自転車を漕ぐ夢。もう一つは最終電車に乗り遅れる夢。

二つの夢を同時に見たことはなかったけれど、

忘れた頃にどちらか一方の夢が現れるのだった。

 

自転車を漕ぐ夢は、見るたびにとても苦しかった。

いつだって急な登り坂を一生懸命に漕ぐだけの夢。

漕いでも漕いでも坂道は続き、もうへとへとになって、

これ以上は無理だと思う頃に、ふと目が覚めるのだった。

夢の中でかいていた汗が、そのまま額から流れそうなくらい、

夢と現実の境が分からなかった。

 

そして最終電車に乗り遅れる夢は、いつでも寂しさが残るのだった。

走って走ってやっとのことでホームにたどり着くのに、

いつも決まって目の前で扉が閉まってしまう。

 

「ねぇ、開けて! ちょっとくらい大目に見てよ! お願いだから・・・。」

 

夢の中の私は必死でそう叫んでいるのに、うまく声が出せない。

そうしているうちに、電車は静かにホームを滑り出してしまうのだ。

舞台はいつも東京駅の地下ホーム。

千葉のずっと奥にある自宅まで、どうやって帰ればいいのか分からずに、

私はただただ途方に暮れてしゃがみ込んでいた。

 

家に帰れない。ネコの待っている家に帰れない。

その不安と寂しさから、終いには泣き出してしまう私。

普段あまり泣かない私が、夢の中ではわんわん泣いていた。

わんわん泣きながら目覚める朝も何度かあった。

 

どうしてこんな夢を見ていたのだろう。

夢を見ていた頃はあまり考えなかったのに、

最近になってふとそう思うようになっていた。

そしてよくよく記憶をたどってみると、

離婚して今の家に一人で住むようになってから、

二つの夢を見るようになったのだった。

 

あの頃の私はきっと、自力で本当に生きていけるのか、

死ぬほど不安だったのだろう。

そして、あの頃の私はもしかしたら、

自分の選択した道が間違いだったんじゃないかって、

どこかで自分を責めていたのかもしれない。

 

離婚してから10年以上が経って、私はここにこうして生きている。

あの頃の私は未来の自分なんて、まるで想像できなかったけれど、

未来はちゃんとやって来て、知らぬ間に人生は成り立っていた。

 

もしあの頃の私に言葉をかけられるなら、

 

「安心して生きなさい。」

 

そう言って抱きしめたい。

ずっと頑張って生きてきた私自身を、思い切り抱きしめたい。

これから先もずっとずっと、自分らしく生きていけるように。

 

 

自転車と最終電車の夢を、今ではすっかり見なくなった。

 

 

 

・・・つづく・・・

 

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