爆弾ゲーム vol.40

  • 2016.12.20 Tuesday
  • 02:59

JUGEMテーマ:エッセイ

 

私が20代の頃に所属していた会社では、スタッフ全員に、

自己啓発セミナーに参加することを義務付けていた。

もちろん私も例外ではなかった。

莫大な参加費は、すべて会社負担であった。

 

会社の同僚が数名ずつのグループに分かれて、

それぞれ4日間のコースに日帰り参加するのだが、

そのセミナーのベーシックコースは、

1回の参加人数が総勢50名以上になるので、グループ分けの際、

同じ会社の人と同じチームにならないよう配慮されていた。

 

4日間のセミナーには、

自己啓発のためのカリキュラムがびっしり組み込まれているのだが、

その中にとても面白いゲームがあった。

 

当時はそんなに印象に残らなかったのだけれど、

今になって、あのゲームがとても奥深かったことに気づくのだ。

 

それは「爆弾ゲーム」というプログラムだ。

 

7〜8人のグループに分かれて、椅子を丸く並べて座る。

そして一人ずつ順番にトライしていくというものだ。何にトライするかというと・・・。

 

トライする人以外の全員の椅子の下に、時限爆弾が仕掛けられているのだ。

その爆弾が爆発するまでの残り時間はわずか1分。

けれど座っている人たちはそのことにまったく気づいていない。

そこで全員を救出するために、椅子から立ち上がらせるというもの。

 

ゲームのルールは至ってシンプルだ。トライする人は、

「立って」という言葉しか使ってはいけない。

そして、爆弾を仕掛けらている方は、立ちたくなったら立つ。

簡単そうに聞こえるが、実際にやってみると、これが驚くほど難しいゲームなのだ。

 

順番は志願制で、やりたい人から順次トライしていく。

私のグループでは、50代の男性が先陣を切ったのだった。

彼は会計事務所の経営者で、5人の従業員を抱えている。

 

スタートの合図とともに彼はまず、大きな声で怒鳴るように、

「立って!!」を連発したのだった。

 

初回だったせいで、私たち受け手には何の心構えもなく、

彼のあまりにどすの効いた声に、とにかく全員がビビりまくったのである。

 

そして怒鳴りがやがて命令口調に変化すると、

ポツリポツリと立ち上がる人が出てきたのであった。

 

怒鳴られている1分間はとても長く感じた。

結果的に7人中4人が立ち上がったのだが、

その経営者が悔しそうな顔をしたのを、今でも何となく覚えている。

 

とにもかくにもこのゲームはこっぱずかしい! 

だから私はさっさとやってしまいたかった。

そこで2番目にトライすることを志願したのだった。

 

「よーい、スタート!」の声で始める。

ここにいる7人の命は私にかかっている、そう思って感情移入していくと、

やっぱり声が大きくなり、叫びながらの「立って!」になる。

実際に自分でやってみないと分からないものだ。

 

「立って! 立って! 立って〜〜〜!!!」

 

私が一生懸命に叫べば叫ぶほど、みんなはシラ〜〜ッとした顔をする。

「コンチクショーーーー!」と思えてきた。

「私はアンタたちを助けてやろうとしてんだよー!!」

こんな本音が体の中から沸き起こってくる。

 

「立って! 立って! タッテーーーーーーー!」

 

やがて「立って」は懇願になってきた。すると2人が立ち上がってくれた。

あと5人を助けなくっちゃ!

残り20秒だ。えーい、なんかもう疲れてきた。

1分間怒鳴り続けたさっきの経営者は偉い! 私はもう限界だ。

 

そこで私はどうしたかと言うと、

なぜそうしたのか自分でも分からないのだが、

お尻ぺんぺんをしながら、「立って」と笑顔で言ったのである。

するとその瞬間、残りの5人はスルッと立ち上がったのだった。

 

「え? なんで?」が正直な気持ちだったが、

それでも全員無事救出できたので、

とりあえずは「やったー!!」なのであった。

 

私たちのグループはそれ以降、

みんなおかしなやり方でトライするようになったのである。

変顔の「立って」だったり、腕立て伏せ付きの「立って」だったり・・・。

とにかく面白かった。

だからみんなすぐに立ち上がる。スルスル、スルスル立ち上がるのだった。

 

他のグループは泣き叫ぶ女性までいて、

なんだか役者の養成所にいるような、そんな感じさえした。

 

 

結局このゲームで学んだことは、人の動かし方だったのだ。

どんなに相手のためだとしても、力づくでは相手を動かせない。

相手が自ら動こうとしなければ、助けることはできないということを。

 

全員がトライし終わると、グループ毎にフィードバックをし合うのだが、

その際、経営者がトライしたときに立ち上がった4人は、

立ち上がった理由を怖かったからだと言った。

まるで会社の上司に怒鳴られているような気がして、

それでついつい立ち上がってしまったのだそうだ。

 

そして立ち上がらなかった3人は私も含めて、

彼の威圧感に抵抗を覚えて立ち上がらなかったのだ。

 

そうフィードバックすると、経営者はうなだれてしまったのだった。

そして、

 

「普段、自分が従業員にしていることかもしれない・・・」

 

と、やがてポツリと呟いたのだった。私たちはどう声をかけていいのか分からずに、

ただ彼を見守っていた。

 

ではなぜ私のお尻ぺんぺんで、

間一髪、残りの5人が立ち上がってくれたのかと言うと、

楽しそうだったかららしい。言うことを聞いて立ち上がったら、

どこか楽しいところに連れて行ってもらえるような気がしたのだそうだ。

 

へー、そういうものなんだ・・・。

 

初めに私が「立って!」と叫びまくっていたときには、

全然心に響かなかったと言われた。

 

本当に言いたいことを人に伝えるのって、こんなに難しいんだ。

当時の私はそう思ったのである。

 

 

あれから何十年も経つけれど、私は少しは成長したのだろうか。

人に何かを伝えるときに、その思いをちゃんと相手の心に届けているだろうか。

目下の人に接するときに、あの時の経営者のようになってはいないだろうか。

 

今、もしもだれかの椅子の下に、架空の時限爆弾が仕掛けられているとしたら、

すんなり立ち上がってもらえるように、命を助けられるように、

謙虚で楽しい伝え方ができたらいいなと、素直にそう思うのだ。

 

 

 

・・・つづく・・・

 

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